ベテラン退職への不安
製造業では、
ベテラン社員の退職が大きな課題として語られることがあります。
「○○さんが辞めたら困る」
「その人しか分からない仕事がある」
「後継者が育っていない」
こうした話はめずらしくありません。
実際、
長年現場を支えてきたベテランが退職すると、
品質や生産性に影響が出ることがあります。
では、
なぜベテランが辞めると現場が止まるのでしょうか。
人材不足が問題なのか
よく言われるのは、
人材不足です。
もちろん、
人手不足は現実の問題です。
しかし私は、
もっと本質的な理由があると思っています。
それは、
知識が構造化されていないことです。
例えば、
ベテラン社員はこんなことを言います。
「経験で分かる」
「見れば分かる」
「感覚だよ」
暗黙知はなぜ引き継げないのか
本人にとっては自然な説明です。
しかし、
聞いている側からすると、
何を見て、
何を判断しているのかが分かりません。
つまり、
知識は存在している。
しかし、
他人が再利用できる形になっていないのです。
これは知識がないのではありません。
知識が構造化されていない状態です。
例えば、
熟練技術者が鋳造欠陥について、
「この形状ならここに引け巣が出そうだ」
と判断したとします。
その判断は正しいかもしれません。
しかし、
なぜそう考えたのかが説明できなければ、
技術は継承されません。
本人が退職した瞬間に、
知識も一緒に失われてしまいます。
実は、
これは個人の問題ではありません。
組織の問題です。
知識を個人に依存させたままにしているため、
組織として再利用できないのです。
知識を構造化するという発想
私はシミュレーション技術に長く携わってきました。
その中で感じるのは、
シミュレーションとは単なる計算技術ではなく、
熟練者の知識を見える形にする活動だということです。
例えば、
鋳造シミュレーションでは、
・どこに欠陥が出るか
・なぜ欠陥が出るか
・どうすれば改善できるか
をモデル化します。
これは、
ベテランの頭の中にある経験則を、
誰でも理解できる形に変換する作業とも言えます。
つまり、
シミュレーションは計算をしているのではなく、
知識を構造化しているのです。
私は、
DXも同じだと思っています。
DXというと、
システム導入やデジタル化が注目されます。
しかし本質は、
組織の知識を再利用できる形にすることではないでしょうか。
もしそうだとすれば、
ベテランが辞めると現場が止まるのは、
人材不足ではなく、
知識を組織の資産に変換できていないから とも考えられます。
さいごに
ベテラン退職の問題を考えるとき、
後継者探しの前に、
一度考えてみてください。
その知識は、誰でも使える形になっているだろうか。
その問いが、
属人化から組織知への第一歩になるかもしれません。
次回は、
知識化に関連するもう一つのテーマを取り上げます。
シミュレーションを導入したにもかかわらず、
十分に活用されない会社は少なくありません。
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
次回、
「なぜシミュレーションは買っても使われないのか」
について考えてみたいと思います。
この記事を書いた人
村上 亮
中小企業診断士・ITコーディネータ
「問題を解く前に、前提を整える」をテーマに、
製造業・DX・意思決定に関する情報を発信しています。
VXtyleでは、そうした思考の整理を行っています。